アウトボードエフェクターのモデリングプラグインが各社から続々と発表され続けているわけですが、どうしてそんなことになっているのか考えてみる。
アナログは音がいい…とか
コンプレッサーやイコライザー、リバーブやディレイなどなど各種エフェクターのプラグインの中には実際にハードとして存在するモデルをソフトウエアに置き換えた物がある。
そもそもどうしてハードウェアのモデリングが必要なのか?下手すりゃ、30〜40年前の骨董品寸前のモデルまでモデリングされているケースもある。
そりゃね、物理的に数も限られているし、値段も益々高騰している。
ってか、どうして値段が高騰しているのか?
物によっては40年も前の機材。当然、アナログレコーディング時代の遺産。それが、また何故デジタルレコーディング中心となった現代においてチヤホヤされるのか?
ベテラン曰く、音がいい。
それに尽きる。
数にも限りがある。当時に生産された数以上のモノは存在しないので、人気が出れば皆で取り合いになる。故に価格高騰、
いい音の定義についてはまた別の機会に譲るとして、キャリア…経験も知識も豊富な諸先輩方がおっしゃられるのだから間違いなさそう。それがいい音…と覚えるのが近道。
誤解しないでいただきたいのは、アナログならなんでもいい音!ってワケではありませんので悪しからず…です。
ギターアンプを例に
スタジオに入り、マーシャルやMESA BOOGIEなど大型チューブアンプで、ある程度の練習をしたことのある方であればお解りいただけると思いますが、プラグインで再現されたアンプシミュレータの音はスタジオのそれと全く同じとは言えないと思う。
そりゃそうだ。方や真空管が入っているしキャビネットのスピーカーもDAWで使用するモニタースピーカーとはモノが違う。それに、レコーディングされているギターの音は、アンプからマイクで拾い、更にはコンプ、EQなどのエフェクターを通ってお化粧されている。
そもそもスタジオのアンプとCDから聴こえるギターの音色が全く同じ音で出るわけなどない。そもそもを繰り返すならば、チューブアンプなんて個体差があり、同じモデルでも個体が違えば若干の音色差はあるし、チューブを交換しちゃえば同じアンプでもまた違った音色がしたりなんかしちゃうから大変(笑)
だけど、レコーディングされた後であろう音(CDから聴こえる音など)とアンプシミュレータの音を比較すると、なかなか素敵な音がするもの。
キャビネットにマイクを立てて、スタジオに置いてあるようなコンプやEQを通し、微調整をされた音がチョチョイとパソコンの画面をいじるだけで再現されるなんてホント便利。
そんなギターアンプシミュレーターも、マイクが変われば音が変わる…だの、キャビネットのスピーカーを交換したい…だの、使い手のワガママを実現してくれたおかげで近頃はそうとう複雑な機能構成となってきた。最近ではIRなんて技術まで登場して、実際にマイクで集音したデータを元にキャビネットやマイクの挙動を再現する始末。
たしかに、DAWから出てくる音が、アンプキャビネットのそれと同じでは、曲の中に混ぜた時に絶対馴染むことはない(笑)そのため、メーカーさんは苦労に苦労を重ねて開発してくださっている。感謝!
デジタルレコーディングについて
デジタルレコーディングが出来るようになって随分時間が過ぎますが、今でもCDは16bit/44.1kHzというビットデプス/サンプリングレートは変わらないまま。
むしろ、最近ではスマホやポータブルメディアプレイヤーの利用が多いようで、その場合、メディアはmp3などの圧縮音源のため、ビットデプス/サンプリングレートはもっと控えめな数字。
結局の所、CDほどの音質がなくても多くの人は音楽を楽しんでおられる様子。
mp3といえど、MPEG-1 Audio Layer-3という規格であれば最大48kHzまで取扱が可能(その分ビットデプスが削られているハズ)なので、パッと聴き高音域まで収録されている。
では、何が違うのか?というと、削られているビットデプス(CDでは16bit)が削られるので、滑らかさが削られている…と言っていいと思う。
伝わったかな?
詳しく知りたい方は検索して調べて下さい(笑)
ともあれ、CDクラスの解像度があれば録音という行為に関しては充分収録されているといえる。なので、多少古いデジタルMTRでも入力されたソースを記録する…という意味では充分に機能していたと言っていい。
では、なぜ音が悪く感じたのか?といえば、それはそもそも入力している音がたいしたことなかったから。たいしたことのない音をきっちりたいしたことない音で記録して、何が悪い!と当時のデジタルMTRはきっとお怒りでしょう(笑)
逆に言えば、いい音を入力してやればいい音のまま記録してくれていた。(POD2を初めて使った時は随分感激したものです)
では、なぜ、プロの現場では更に細かいデータ処理(24bit/96kHzとか)をするのか?それは、最高の音を記録するのだからより正確に記録していたいだけ。多分そんな感じ(笑)
技術的に可能になればより細かいデータ処理を行うのがプロの現場…というものでしょう。消費者の手元ではギュウギュウに圧縮されているんですけどねw
で、話を戻しますと、正確に記録してくれるデジタルレコーディングが盛んになってくると、その正確に記録する律儀な仕事に文句を言う人が増えてきた。
昔のアナログレコーディングでは、録音するだけでもっといい音になったのにな…
で、見直されたのがアナログ機材の存在。
アナログのミキシングコンソール、マイクプリアンプ、アナログのコンプやイコライザーなどなど。
より正確に記録しよう!とデジタルレコーディングの技術は登場したのに、現場では通すだけで音色に変化を起こすアウトボードが恋しくなったワケ。
DTMで利用されているDAWの有名所ではCubase、ProTools、Digital Performer、StudioOne、などなど、この辺は、律儀に入力された音を正確に記録してくれる(厳密にはそれぞれのDAWによる音色変化があるらしいがアナログボードの変化の比ではない)。
なので、アウトボードによる音色変化を再現するには、現物を通すかプラグインの出番となる。
DAWにアウトボード現物を通しても、プラグインを挿しまくっても、アナログレコーディング当時の再現とはいかない。結局の所音色を左右する要素はケーブル一本から影響を受けるので、厳密に再現するのは難しい。だけど、それっぽくはなるからプロも利用しておられる。
いろんな畑で言われますが、ここにも「沼」は存在した。
アナログ機材をモデリングしたDAW
最高の音を正確に記録してくれるDAWがあり、しかし、音色に不満があるのでアウトボードやそれらのモデリングプラグインを利用する。はじめからそんな前提があるのなら、どうせならDAWの中にあるミキサーをアナログミキサーのモデリングしたものにしちゃったらいいのに…なんて思ったあなた!鋭い。
実はないわけではない。
最近大型アップデートで話題になったpropellerhead社のReasonはアナログミキシングコンソールSSL 9000kを忠実に再現しているらしい。
→Mixing in Reason 10 | Propellerhead
また、アメリカ・ナッシュビルに本社を置く老舗のコンソール・メーカーHarrisonは、’70年代後期から’80年代初期に発表されたロック/ポップスの名盤(マイケル・ジャクソンの『Thriller』が有名)の多くが制作されたミキシングコンソールをモデリングして自社で発表してる。
セール時なら2〜3千円で手に入るMIXBUS4
→ MIXBUS Ver.4|Harrison
Harrison 32Cミキサーを再現したフル機能のワークステーション
→ MIXBUS 32C|Harrison
これらはDAWとしての体裁を持ちつつ、アナログコンソールがモデリングされているため、極端な話、ミキサー卓をモデリングしたプラグインは不要となる。
ただし、MIXBUS両モデルに関しては使い勝手が非常に癖を持っており、かつ日本語情報は期待できないといって差し支えない。
作曲から収録までは他のDAWで行い、ミックスからマスタリングまでをこちらで行うのが現実的な気もする。どちらもVSTプラグインが利用できるので、その辺はありがたい。
まとめ
最近ではギターの音色も後から差し替えられるように、録音はプレーンで記録しておいて、プラグインを取っ替え引っ替えすることでどうにでも出来る…という便利な作業が中心。
なので、録音などは余計な味付けの少ないDAWで行うのがスマートなのかも。
ただ、それだとアナログ回路を巡る回数は減ってきますので、アナログレコーディングを再現…というわけにはいかない。いかない…ったって、そこまで気付いてくれるリスナーさんがいるはずもなく、その辺は深く考えないほうがハマる沼も浅く済んでいいのかも(笑)
愛する自作曲を、こだわりを持って完成させていくにはそれなりに手間隙かけるしかない。しかし、便利なものは活用して要領よく仕上げていくことも大切。
Reasonのお試し版は制限があるのでトラック数が多い場合は上位版を手に入れるしかありませんが、そこそこのトラック数で収まる曲であれば、トラックごとに吐き出したファイルを入れてやって、最後の仕上げだけをMIXBUS4やReasonでやってみる…なんて方法もありますよ!ってお話でした。
せっかく鳴らした音を正確に記録してくれるデジタルレコーディングというのに、なんだかややこしいお話になってますよね(笑)