「いい音してるね!」「めっちゃええ音やん!」などなど音を褒める場面が度々あるわけですが、その「いい音」とはどんな音なのか?何をもって「いい音」とするのか?
「いい音」という定義をちょっと考えてみました。
何の音なのか?当てるには
まだじっくりと音楽を聴き込んだことのない頃…人によってマチマチですが、小学生くらいの頃を思い出していただきたい。まだ、音楽について知識も浅く、聴こえてくる音はひとかたまり…もしくは、アイドルの声だけが認識出来ていた程度の頃のこと。そんな頃では、テレビから流れてくる音楽を聴いて、この音がトランペットの音で…この音がオーボエの音で…これがバイオリン。でもこれはヴィオラだな…なんてきっちり聴き分けられるなんてありえない。
こんな芸当が出来るには、各楽器の音色をたくさん耳にして、更には様々な楽器の知識が頭に入っていない限り、演奏中の楽器を聴き分けるなんて無理。
だってそもそも知らないのだから(笑)
ひとつの楽器を深掘り
ギターひとつを取ってみてもそう。そもそもギターに対しての予備知識がない人の場合、ある演奏の中でギターのフレーズを聴き取り判断する…なんて事は難しい。知らない人にとってみれば、エレキギターもアコースティックギターも判らないもの。
アコースティックギターを更に掘り起こせばスティール弦やガット弦の違いもある。一度解れば何ということのない聴き分けも、聴いたことのない音など判断できるわけがない。
テレビを見ていたら、とあるバンドが気に入った。特に右側に立って演奏している人がカッコイイ!どうやらこの人が演奏しているのはエレキギターらしい。じゃ、俺もギター始める!と思い立って楽器屋へ行ったものの、ズラーっと並べられたギターの中に見覚えのあるギターはない。こんな経緯であれば、そもそもこのギターを始めようとしている人は、その憧れのギタリストがどんなギターを持っていたのか?も把握していないと思われる(笑)
せめて、その憧れのギタリストが持っていたギターがレスポールなのか?ストラトなのか?SGなのか?フライング∨なのか?ざっくりでもモデルが判っていれば、もうちょっと悩みようもあったのだろうが、知らない…ということは、こんなに不便なものだったりする。
どうにか憧れのギタリストが持っていたギターのモデルも判り、同じ形、同じ色でブランド違いの安いギターを手に入れることが出来たとして、持ち帰ったそのギターを弾いた彼は愕然としたことだろう。全然同じ音が出ないのだから(笑)
エレキギターってアンプに繋がなきゃいけないのねw
アンプに繋がないと、こんな音なのねw
こうやって彼はエレキギターのアンプに通さない音を初めて知ることになる。そして、この後、アンプに繋いだ時の音、アンプを歪ませた時の音、エフェクター各種をつないだ時の音などなど、様々なギターの音を知ることになる。
こうやって耳に入ったギターの音は、彼のモノサシとなっていく。
音を聴き分けるモノサシ
同じタイプのギターを弾いてみても、パーツの構成が違えば音色も微妙に違うことをやがて知る。アンプが違えば同じフルテン設定にしていても、同じ音にはならないことを知る。
こうした積み重ねがやがて自身の好み…「いい音」を判断するモノサシが出来上がっていく。
ギターの音色の良し悪しを判断するには、それまでに多くの音を聴いて好き嫌いを判断できるモノサシを構築しておかなければならない。
今は、例としてギターを個別に取り上げてみたが、オーディオとしての音の善し悪しを判断するのにいちいち楽器個別の音を全て知っておかなければいけないのか?というと、必ずしもそうとは限らない。
あなた自身が楽器個別の音にこだわらないのであれば、全体の印象で判断してもいい。
しかし、それでも音の善し悪しを判断するためにモノサシは必要になってくる。
あのスピーカーで聴いた音はこんな感じだった…このヘッドホンで聴いた感じはこんな感じだった…友達の車の中で聴いた音はこんな感じだった…
絶対比較と相対比較
何と比較していい音と判断するのか?
それは、過去に自分が耳にした音への印象と衝撃。今、耳にしている「音」に対して比較なしに絶対的な判断の出来る方(そんな人は予備知識がなくとも、それまでに様々な音で感動をした経験の持ち主)もいらっしゃるでしょうが、多くは過去に聴いた「音」と比較して良し悪しを判断する場合の方が多いと思う。
自分が普段愛用しているリスニング環境は、その人にとってひとつの基準となる。その基準と相対的に比較していい音、悪い音の判断をするのが一番手っ取り早い。
しかし、ある程度、音に対して真摯に向き合っていれば、絶対的な判断が出来る時もある。
普段ロックやポピュラーな音楽ばかり聴いていて、オーケストラ編成によるクラシック音楽を耳にしていなかった頃、ふとした機会に恵まれ中規模ホールにおいてオーケストラの演奏を聴くことが出来た。
しかし、オーケストラの演奏など、音源による経験も浅く、自分の中に比較できる基準などありもしなかったが、その演奏にはとても感動してしまった。とても壊れやすそうなガラスの玉でも転がしているような、ダイナミックレンジの広い、繊細な音にとても驚いてしまった。
オーケストラの演奏ってスゴイわ…と。
しかし、オーケストラの演奏に慣れた方が、同じ場所で同じ演奏を聴いた時、何と答えるか?多くの人に聞けば聞くほど様々な意見が聞こえてくることでしょう。
その時のわたしにとっては、とてもいい音だったとしても、もっと名の通った会場で、名の通ったオーケストラの演奏を聴き慣れた人にとっては物足りなかったかもしれない。
まとめ
「いい音」という定義は、主観的な判断によって定められる。つまり十人十色。人によって様々。そしてその「いい音」と「悪い音」との境界線はとても微妙で、経験次第では判断がつかないほど曖昧だったりすることも。
なので、諸先輩方が「これはいい音だ!」とおっしゃられる「いい音」には、普段から触れておくことが経験を積む(判断基準を持つ)ことにつながる。
「楽器を買うなら初めからいいモノを買ったほうがいい」なんてアドバイスはよく聞かれるセリフですが、「いい音」を聴き分けられる耳を持つ事につながる…ってのも、ひとつの理由だったりするのかもしれない。(いい楽器は値段が高いから、後戻りできずに頑張るでしょ…なんて理由もありますよねw)
「これはいい音だ!」と自信を持って言えるようになるには、裏打ちされる知識と経験があってこそ。
もちろん、理由は解らないが「いい音」だと思う…と思える感性を磨く事も大切だけど、そんなセンスの育て方なんて解らない。いろんな音を真剣に聴いて分析していたら、そのうち身に付くのかな?
そのへんの事については何とも言えませんので置いておいて、今、自分が使っているリスニング環境を構築している機材の種類、聴いている音源の制作された背景や、そもそもその音源のビットレート(サンプリングレートレート×ビットデプス(ビット深度×トラック数))などを意識するようにしていると、違う環境で聴く時に、何が違うから音が違うのだろう?と、考える時も足がかりが掴めやすくなると思う。
いい音の定義ってのは、あなたの頭の中にある掴みどころのないモノサシってことでよろしいかと。