ステレオミックス、パンニング、定位設定に正解はないのだろう。しかし、だからといって適当に…というわけにもいかない。自分なりの設定はどうしたいのだろう?そんなことをつらつらと。
発端
ある時、マイケル・ジャクソンのベストを聴いていました。そりゃもう、言わずと知れたキング・オブ・ポップ。その仕事に携わったスタッフや道具は世界最高峰の集結だったはず。その結晶は今も聴くことが出来る。
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とくに信者だった訳でもないわたくしが馴染み深いのはアルバム「Thriller」に収録されている楽曲が中心。ベスト盤を聴いているため、リマスター処理は施されていると思われるものの、元の音は80年代前半に収録されたもの。
また、そのベストの中に収録されている「Black or White」も好き。
この曲は’91年発売の「DANGEROUS / デンジャラス」に収録されている。先行シングルとしてアルバムより先に発売されているものの、Wikipediaによりますと’91年の録音らしい。
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’80年代前半から’91年にかけて、作業環境は大きく様変わりしていったと思われる。なので、音色そのものはデジタル技術の恩恵を受けつつ、よりクリアになっていったのだろうけど、マイケル楽曲の構造そのものはそれまでと変わらずシンプル。
音階、タイミングなど様々な条件をピッタリ合わせてレイヤーを重ねているのだとすれば、聴き分けは難しいが、それでも楽曲の中で鳴っている音色の数は最近の楽曲に比べ実に少ないのではなかろうか。
だからといって、決して楽曲的に寂しく感じることもなく、マイケルの歌声に彩りを添えているように感じられる。
元々、ヴァン・ヘイレンの「Hot for Teacher」が大好きなだけに、最近の曲は音数が多すぎるんや…そんなことを考えているところへこんなつぶやきが。
そもそも各ソフト音源の録り音は良いわけだから、ミックスのためのエフェクト処理なんていらないはずだ!と思ってきた。よく分からないけどw
— ヒの字(音楽/翻訳) (@MOG_hidekinoway)
ドラムトラックの定位
このつぶやきに反応して交流する中で、レニー・クラヴィッツの「Are You Gonna Go My Way」がドラムをマイク一本で収録したらしい…という話が出てきてビックリw
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たまたまレニー・クラヴィッツのベストを持っていましたので聴き返してみましたら、確かにドラムの広がり感は狭い気がする。かといって70年代の音源に見られる片側のチャンネルのみから聴こえるようなミックスではない。よくよく聴いてみると、他の曲も同様な収録をしているかもしれない気がしてきた。
そんな発見もあり、もやもやしているところへ今度はこんなつぶやきが…。
オケラ2号「音の虫」 : 【DTM道】「LRで聴くロックの名曲#1」60〜70年代編 https://t.co/Co5vscz5YH pic.twitter.com/GNkWz1viZd
— オケラ2号 (@okera2go) 2018年3月28日
つぶやきにリンクされているサイトの方では手書きのイメージを伴って、60〜70年代の楽曲における定位の分析が記されていた。
そうそう、ビートルズは片っぽうのチャンネルからしか聴こえないドラムの曲があるんですよね、お、ストーンズにもそんなミックスがあるのですね!ジミヘンは真ん中から聴こえてるイメージが強かった…などなど、じっくりと読ませていただきました。
こうして時系列に並べていただくと、60年代前半はドラムを片側に置くミックスが目立ち、60年代の終わりから70年代にかけてドラムをセンターに置くようになってきた感じなんでしょうか?一部の楽曲のみの確認ですからここで決めつける訳にはいかないですが、今となってはドラムトラックが片側のチャンネルに偏ったミックスがほぼ見当たらないのが現実。
ドラムトラックは、キットそれぞれにマイクを立てることで、各キットをバラバラに配置することが出来る。キックとスネアはセンターでタムは両側に広がるように配置。ハイハットは右か左のどちらかに寄せて、シンバルも偏らないように配置。そんなパンニングで全体からドラムが鳴っている様に聴こえるのが王道かと、勝手に決めつけておりました。
そんな決めつけのとこへレニー・クラヴィッツのお話です(笑)びっくりしましたよw
「Are You Gonna Go My Way」は’93年の発表ですから、時代はすっかりデジタル処理が浸透して来た頃。必ずしもアナログ録音・処理が消えてしまったわけではないでしょうが、ドラムの定位は左右全体に広げるのが当たり前になっていたのではないでしょうか。
そんなさなか、ドラムのキット全てがセンターから聴こえるミックスをぶち込んでくる辺りに、曲が良けりゃ定位はだいたいでエエんやでぇ!なんて気概が感じられる気がするw
ヘッドフォン・イヤフォンで聴く定位
60年代前半は、スピーカーから聴くことを想定して、ヘッドフォンやイヤフォンで聴くことは踏まえずにミックスしていたのかもしれない。だとしたら、ドラムトラックがどちらか片方のトラックに振り切られるのも致し方ないのかも。
スピーカーから聴くのだとすれば、どちらかのトラックに振り切っていてもそこまで気にならず、ドラムセットがこっちの方に置いてある様に感じられることでしょう。
スピーカーと頭の位置関係が二等辺三角形を描くような配置ではなかったとしても、その空間の中で2つのスピーカーから発せられた音は多少の跳ねっ返りを経て両耳まで届くので、よほど真横にスピーカーを置いていない限り、偏りが気になるのは少ない気がする。
しかし、ヘッドフォンやイヤフォンは違う。
両耳それぞれに1つずつスピーカーを耳にあてているようなものだから、片方に振り切った音源はその片方からしか聴こえない。
個人的にはその聴こえ方があまり好きではない(笑)
ところが、最近は便利なものでとあるプラグインを挿すことで、イヤフォン・ヘッドフォン用のミックスに変換してくれるものがある。
→ DOTEC-AUDIO – DeeSpeaker VST & AU & AAX plug-in
これらのプラグインどちらかを通すことで、左右どちらかに振り切っていた音源もやや中央に寄ってくれるので、全然聴きやすくなる。
こうしたプラグインの登場を踏まえると、やはりどちらか片方に振り切ったパンニングはわたくし以外にもあまり好まれていないのか?と思ってしまう。
でもね、ハードロックの様にギターの音を2本用意しておいて、それらを左右に振り切るのは好きなの。リバーブなどの空間系エフェクターがかかっていないドライなものに限るけど。
この違い、ご理解いただけるでしょうか。
左右に振り切ったギターのミックスも、HPLやDOTEC-AUDIOのプラグインを通して聴いても嫌ではない。やはり、ドラムがどちらかに振り切ったミックスもギターを左右に振り切ったミックスもスピーカーから聴くことを想定しているのかもしれません。
そもそも音楽は耳だけではなく、身体全体で聴いた方がいいに決まってます。
まとめ
2つのスピーカーから流れてくる音を真正面で聴ける環境においては、パンニングによる左右の定位に加え、音色の高低による高さの違いも楽しむことが出来る。
どうやって設定しているのか?未だによく解っておりませんが、集中して聴くことでベードラやベースは歌声のやや下に位置するように聴こえたり、左右に振られたギターのやや上あたりにストリングスの音源が乗っかっているように聴こえたりします。
つまり、ステレオの設定は左右だけの一次元ではなく、上下も加えた二次元として楽しむことが出来る。
(モニタースピーカーの中音域と高音域が分かれて設置されているんだから高音域が上の方から聴こえるのはそのせいでは?なんて意見もあると思います。同軸のモニターを試したことがないのでそのせいかもしれませんw)
いや、リスニング環境を整えれば更に、奥・手前を加えた三次元で楽しめているのかもしれません。
三次元説については、自分でよく判らないのでここでは置いておくとして、少なくともスピーカーから流れてくる音楽はスピーカーと自分との間にある空間に鮮やかな音像を描いてくれます。
そんな目の前に膨らんだ音像の中から、あの音がこの辺にある…この音がこの辺に移動した…などなど、こういった音の配置も意識して聴くと、その楽曲をより深く楽しめるのではないでしょうか。
また、作り手側としましては、聴いてもらえる相手に対して、いかに膨よかな音像を体験してもらえるか、そんな事を意識したパンニング・ミックスを施すようにしなければならんのではないか。
そんな事を考えると、じゃぁスピーカーで聴く用とイヤフォン・ヘッドフォンで聴く用の違うミックスを用意したらオモロイんとちゃうやろか…なんて気もします。それぞれ、そもそも聴こえ方は違っているのですから。
また、聴き手にプラグインの使用を促すよりも、聴かせる側から提供することで気軽にその違いを楽しんでもらえることにもつながります。
とはいえ、なかなかすぐには浸透しないでしょうけどね(笑)