海苔波形で着耳すべきは歪み(ヒズミ)ではなく歪み(ユガミ)……だったりして

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海苔波形の中でどのような音色変化が起こっているのか?聴き比べてみよう!というのが趣旨
難しい話は抜きにして単純に聴き比べて、どっちが好みの音源なのか?を判断していただければ…と思います

ただ、今回は歪み(ヒズミ)ではなく歪み(ユガミ)に着耳していただきたいと思います

CDなどの音源を波形表示した際に海苔波形と揶揄される状態のものがまだまだ当たり前に流通しておりますが、この時槍玉に挙げられるのが歪み(ヒズミ)だったりするわけです

ところが、そうそう露骨なクリップノイズに出くわすこともないし、矩形波が発生させるらしい奇数倍音が増えたことなんて音源を聴いて聴き分けられるシビアな耳など持ち合わせておりません(そんな事できるならエンジニア業に挑戦してたし)

それよりもよっぽど気になるのが音像の歪み(ユガミ)なわけです

ナンノコッチャ?と思っていただけましたら是非とも続きを御覧下さいませ

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お断り

海苔波形やラウドネス規格について話す時、どうしても専門的な用語が必要になってしまうほど深い議論が起こりがちです
しかし、ここではシンプルに海苔波形の中でどのような音色変化が起こっていて、どっちが好みでしょう?という点に的を絞っております

難しくなるお話は極力割愛していることをご容赦下さい

まず、基準となる音源を用意いたしました

詳細は画像のようになっています

ドラム・ベース・ピアノの3トラックから成る拙い音源です

(クリックで拡大表示)

これを、ミックスダウン直後でマスタリング前のタイミング
つまりアーティストが聴いて欲しい状態の音源(大袈裟ですがw)…と思って下さい

この後、各種パッケージ(CD、DVD、配信、放送など)に最適化されたマスタリング工程を経て消費者の耳元へお届けされることになる

この時厄介なのがラウドネスという規格による音量制限

極端な言い方をしますとCDにのみ音量規制がない
なので、CD用のマスタリングにだけ音量を稼ぐ処理が施される

その結果、デジタル技術の進歩も後押しされて海苔波形が生まれた

そこでご覧いただきたいのがこちらの音源(音量差があまりにも激しすぎすのでここでは視聴音源は割愛)

(ちなみに-8LUFS)

これは先程の拙い音源にリミッター(Waves L3)を施して、オーディオデータに収められる信号の上限を守りつつ可能な限り大きい音にしたもの
海苔波形にはやや及びませんが、それでも充分に波形は歪め(ユガめ)られています

先程のお話に戻れば、ここで行われている工程は、あくまでも規格に対しての技術的な加工なので、アーティストサイドの創造性や独創性といった創作的な意図は介在しない(かもしれない)

技術の進歩を施した結果、どのような変化が起こっているのか?音量を揃えた(つまりラウドネスノーマライゼーション)音源でお確かめ下さい
(-16LUFS)

聴き比べやすいようにもう一度基準になる方↓を置いておきます
(-16dB)

印象が大きく変わっていると思います

ハイ上がりでキラびやかな音と言っていいでしょう

波形がユガめられると、こういった変化が起こります

結果的にこちらの音源の方が好き!と思われる方も少なくないかも

しかし、アーティストが「OK!」を出したのは先にお聴かせした音源
この変化をどう判断しましょう?

商業的に成功するためにマジョリティが良しとしそうな後者でしょうか?

これがアーティストサイドで「OK!」を出したモノでしたらそれを聴いて欲しいのでしょう

果たして全ての海苔波形音源がアーティストサイドの意向なのでしょうか?

最終的には聴く人がどう感じるか?が答えでいいのかもしれませんが

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こんなことをお話しているわたくしも以前は海苔波形音源の方が音の強弱が均されてブリブリぱっつんぱつんに迫力があってスゴイ!これがプロの仕上げなのか…と感動していたものでした

ところがある時からミックス全体がパツンパツンになることで失われているモノがあることに気付いたのです

ある時…というのはこちらのサイトの存在を知った時です
収録レベルの話:Studio Gyokimae

やがてサイト内の一部コンテンツが書籍化されました
書籍「とーくばっく」のご案内:Studio Gyokimae

その後、著者である@gyokimaeさんに直接教えを請う機会にも恵まれ、より理解が深まりました

並行して行ったのが、中古CD屋さんで発売日の新しいものと古いCDを選んで購入し、並べて聴き比べたことです

海苔波形になっている後発音源の方が確かに迫力はあります

しかし、その迫力の犠牲になっている各楽器個別の存在感やアンサンブルの妙は失うべきではないことに気付きました

大きい音は、それ以上大きくならないように抑え込み、小さい音を可能な限り持ち上げることで音の密度は高まります
その反面、本来そこにあるはずの隙間は失われてしまうわけです

その結果、波形面積の多い音源が出来上がる

流通している音源は、プロのエンジニアさんの技術やノウハウが詰め込まれたサウンドになっていますから、今回ご用意しました拙い音源のような露骨な違いはないのかもしれません

しかし、そこで起こっている変化の原理は同じです

大きい音は抑え込み、小さい音を持ち上げて可能な限り大きい音にする

ここで、ドラムトラックの波形を比べてみましょう

こちらが先に聴いていただいた音源のドラムロラックのモノ

(-22LUFS)

そして後から聴いていただいた音源(ほぼ海苔波形)に含まれているであろうドラムトラックのモノ
(リミッター[Waves L3]をかけました)

(-14LUFS)
(厳密には、2mix音源では他の楽器とまとめて加工されていますので、それらの楽器の干渉がない分、不正確ではあります)

これらは、波形の面積が違いますからそれぞれの音量にも開きがあります

聴き比べる際、音量に開きがあるのは不公平と言えますのでリミッターのかかったドラム音源を元のドラム音源に揃えました
(いわゆるラウドネスノーマライゼーションです)

それでは聴き比べてみましょう

まずは元のドラム音源から
(-22LUFS)

続いてリミッターを掛け、音量を揃えたドラム音源
(-22LUFS)

ライドシンバルが大きい音になっているのが目立ちます
キックやスネアの音色も随分垢抜けた感じがしますね

どちらが好み?って問われれば後者!と思う人も多いと思います

しかし、このドラマーさん(ここではAD2[←ドラム音源]ですがw)は元のドラムの音を聴いて欲しい!と思っているのだとしたらどうでしょう?
ライドシンバルだってキックやスネアより控えめに叩いているのが聴かせたいビートなのだとしたら、リミッターによって持ち上げられたライドシンバルの音量はミックスバランスさえ狂わせていると言えます

ちなみに打ち込んだライドシンバルのベロシティはこんな感じでした

(クリックで拡大表示)

デリケートなニュアンスをつけて叩いたドラマーさん(AD2ですがw)の頑張りは掻き消されてしまっています

たとえ聴く人が後者の音の方がいい!のだとしても、アーティストサイドの意向が前者なのだとしたら尊重されるべきなのではないか?と思いませんか?

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数年前、とあるアーティストさんがミックスダウンでマスタリングもまとめて行った……というような裏話を公言されていたCDを聴いた時、波形面積の広いパツンパツンな仕上がりでした

しかし、これはアーティストサイドで納得のサウンドなのですから外野はとやかく言えないものです

パツンパツンな音が好きな人も心置きなく大音量で楽しめばいいと思います(小さい音量でもいいけど)

しかし、どこまでがアーティストサイドの意向で、アーティストさんが聴かせたい!と思っている音なのかどうか判らない音源については「アーティストさんが聴かせたい音なのかな?」とか「せっかく生楽器ならもうちょっとこうならいいのになぁ……」なんて思いを馳せながら聴くのもありなんじゃないでしょうか

まとめ

今回はミックスダウン後の2mix音源に対してリミッター/マキシマイザー処理を施した場合を想定してお話しました

もしもアーティストさんがリミッター処理を施したスネアやキックを聴かせたい!と思っていたのだとしたら、キックやスネアなど、各楽器のトラック個別に音色加工をすれば、全体のバランスを崩すことなく音色を作られるわけです

なので、アナログ時代〜デジダル黎明期に発売されていた音源が再販されていたり、リミックスを明記していないベスト盤などで波形の面積が広々と広げたれていたとしたら、そこにアーティストさんの意向はどの程度反映されているのだろう?なんて気になるわけです

最後に、

ヘッドルーム(波形の外側にある余白のこと)に余裕のある2mix音源に対して派手なリミッティングを行うと、音色やミックスバランスにも影響を及ぼすことを踏まえて海苔波形音源を聴いた時、ファイルのエンコードで歪み(ヒズミ)が発生してる……とか、ストリーミングサービスのラウドネスノーマライゼーションがリミッターによるものなのかボリューム操作によるものなのかちょっと聴いただけではピンとこない程度の違いよりも、もっと明らかな(今回の音源比較のような)音色・音像変化の方が気になるのになぁ……ってお話でした

でわでわ

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