2018年度末 HR&HM界隈に見る海苔波形事情

DTM

2018年度末を迎え、明日明後日には新元号も発表されるタイミングではありますが、音圧がどうのこうのといっている分野でも一応確認をしておきましょうか…ということです。

実は先日発売されたとあるギタリストのアルバムにおいて興味深い変化が見られたので、今回の投稿となりました。

果たしてこれからCDに詰め込まれる音源はどの様に変化していくんでしょうね?

海苔波形(Brickwall)とは

まずはそもそも海苔波形海苔波形(ブリックウォール)って何ってところをおさらいしておきます。

音楽制作をするような立ち位置にある人であればご覧になったことがあると思いますが、”音”というのは、視覚的に確認する際、波形と呼ばれるグラフ表示をするわけです。

Audacityというソフトでとある楽曲を表示したものがこちら。

この曲は1990年に発売されたものです。

で、その後、ツールや技術の進歩・進化を経て最近ではこんな感じで収録されています。

こちらは今年になってから発売されたとあるアニソンシンガーさんの楽曲。

先程の曲にくらべて、青色部分の面積が広がっています。で、この見た目を味付け海苔に見立てて海苔波形と呼んでいるわけです。
(海外ではレンガの壁に見立ててBricWallと揶揄されているらしいです…あくまでも”らしい”)

どうしてこのように変化してしまったのか?っていいますと、こうする事でより大きな音を詰め込むことが出来るから。人の耳は大きい音のほうがいい音って認識する習性があるらしく、販売する側はより大きい音を求めて制作するようになったのだとか。あとは、他の曲と並べて聞いた時にちょっとでも大きい音で聴いてもらって目立ちたい…なんて意見もあるのないのという話です。

海苔波形(Brickwall)による弊害

技術的に大きい音を詰め込めるのであれば、よそよりも大きい音を詰め込んでくれ!って司令があったとかなかったとか(笑)、とにかく発売されるCDはドンドン大きい音を詰め込むようになります。

CD規格の発表当初は、アナログレコードと変わらない程度の音量だったものが、ツールや技術の進歩・進化によって詰め込めるようになったんだからやらないと損…みたいな?

しかし、この海苔波形(Brickwall)は、クリップノイズ発生のリスクと隣り合わせです。

デジタルオーディオではある一定の音量を超えるとノイズが発生してしまい、収録されている音声を楽しむ事が難しくなります。
そんなクリップの発生するギリギリのところでストップをかけるツールが開発されていき今に至るわけです。

何がスゴいって、グラフ上はノイズ発生の線を越えているのに、聴感上不愉快なノイズが聴こえない(解る人には解るのかも)ように加工されていることが度々あるわけです。

こちらをご覧ください。

先程の海苔波形の例として挙げたとあるアニソンシンガーさんのとある曲です。見事な海苔波形(笑)

この波形を横方向に拡大していきます。
(楽曲全体が見えている状態から楽曲の一部を拡大してみます)

こうして拡大すると、海苔波形と揶揄していた曲だってちゃんと波形状に見えるやんwなんて思っちゃいますよね?

これをもっと拡大してみます。

波形状に見えていた青い部分が折れ線グラフのようになりました。ここまで拡大してみるとクリップノイズの発生しているはずの箇所を見つけやすくなります。

赤い線はわたしが書き加えたものですが、この線に青いグラフが触れてしまうとクリップノイズの発生する可能性があるポイントになります。
で、よくご覧頂きましたらところどころ赤い線に青いグラフが触れている部分があります。中には「これ、突き抜けてない?」と思われる部分も(笑)

更に拡大します。

拡大しすぎてついに表示方法が変わってしまいました(笑)

勘のいい方ならピン!とこられたでしょうが、縦線の先にある丸いポッチ…このポッチを結んでいたのが先程までの折れ線グラフになるわけです。
(画像に表示されているグラフは同じ時間帯ではないので波形とグラフの形状は異なります)

更に注目していただきたいのが、クリップノイズの発生してしまうラインまで丸いポッチが届いてしまっている箇所がいくつかあります。
そして、さらには丸いポッチが描かれていない部分まであります。これはクリップノイズの発生してしまうラインを越えているものと思われます。

しかし、楽曲を聴いていて不快感を感じるようなノイズは感じられない…スゴい!なんで?

これがプロの使う道具と腕の差…ということなんでしょうね。

海苔波形(Brickwall)に対する意見の分裂

この海苔波形と呼ばれる状態での音声収録を施されたCDに対する様々な意見がこれまで交換されてきました。CDとはまた違うのですが、インターネットを通じて音楽を配信するサイトのいくつかのサービスで音量規制が施される事態が発生しています。これは、リスナーが曲に合わせていちいち音量調整をしなくてもいいように…というサービス側の配慮と思われます。

1枚のCDを通して聴いている分には音量の差はさほど発生しませんが、これまでに発売されてきたCDの中から1曲ずつピックアップしてプレイリストを作成した場合、古い曲は音量が小さく、最近の曲ではお音量が大きく、曲が変わる度に手元で音量を調整する必要が出てきます。その煩わしさをストリーミングサイト側で処理してくれているわけです。

そんな時代の流れもあり、海苔波形と呼ばれる状態で収録することへの賛否が問われる様になってきたらしいです。

海苔波形で収録された音源というのは、確かに音が大きい。しかし、それだけではなかったりもします。海苔波形状の音源とそうでないもの。可能であればリマスターされたことのある古い曲を続けて聴いてみて比べていただきたい。この時、音量を揃えて聴き比べしてみると、同じ曲ではあるけれども、何か聴こえる感じが違うことに気付いていただけると思います。

この変化について、興味深い検証をされた方がいらっしゃいますので、その方の動画を拝借してみました。

より大きい音を!と詰め込まれた音源ファイルを小さい音で聴いた時、その音は果たして音源製作者の届けたかった音像なのか?という疑問ですね。その疑問に対する答えが「そうだよ!」ってことであれば、これまでのように海苔波形で制作すればいい。しかし、「いや、これじゃないな…」と感じられたなら、音量を詰め込む加工に疑問を持ち、余裕を持った音量の中で本当に聴かせたいバランスを極める方がいい。

HR&HM界隈ににも訪れた変化

つい数日前、とあるギタリストさんのカバーアルバムが発売されました。収録されている楽曲はその多くが70年台前後まで遡るまぁ古めの曲(怒られるw)…名曲の数々を収録しているわけです。

やや古めの曲…ということもあり、楽曲のアレンジからさほど大音量での収録…とはならなかっただけなのかもしれません。つまり今回だけかもしれない。しかし、このギタリストさんがこの状態でO.K.を出した…というのがちょっと驚きでした(笑)
(このギタリストさんはモアファースト・モアラウドで有名な方)

で、そのニューアルバムの波形を確認したのがこちら。

ちょっと詰め込みすぎて小さくなってしまいましたのでクリックして別窓拡大表示できるようにしておきます。

で、一見波形の部分が広く、海苔波形に近いように見えますが、それでもわずかに隙間も見受けられます。

で、ちなみにAudacityには、クリップ(収録できる最大音量を越えてしまった部分)をチェックして教えてくれる機能があります。

この機能を使ってチェックしたところ、この新しいカバーアルバムでは一切クリップした箇所が見つかりませんでした。

ちなみに過去に発表されたこのギタリストさんの楽曲ではこんな調子でした(笑)

普通に再生させる分にはクリップノイズは発生しませんでしたが、この楽曲をモノラルで再生すると、まぁ見事に歪みまくりです(笑)
この曲を手にした人の再生環境によってはヒドイ事になる可能性も秘めている…と思って差し支えないと思います。

しかし、この状態で販売されているCDが、現状マジョリティとなっています。

そんな現状に異を唱えようとされているのか、楽曲の性質上たまたまこうなっただけなのか?こればっかりは直接御本人様にインタビューでもしてみないと判らないことです。今後の新曲に注目しておきたいところ。

HR&HM畑以外のところでも

実は先日、マスタリングの本を執筆されている方のトークライブへお邪魔する機会に恵まれました。トークライブ終了後、音源の頒布会となりましたので一部の音源を手に入れて、早速聴いてみました。

今回、お邪魔したトークライブではモジュラーシンセを使った電子音楽チック(この辺のカテゴライズが判りませんw)な音を聴かせてくれていたので、きっと間違いなくパツンパツンの詰め込まれた音源なんだろうな…と勝手に決めつけて聴き始めました。

ところが…

要所要所でクリップギリギリを攻めている部分もありますが、電子音楽界隈であれば、先程挙げましたアニソンシンガーさん並か、それ以上(あれ以上無理ですがw)の海苔波形っぷりを見せてくれると思いこんでおりました。

確かにその方が書いておられるマスタリングの本でも、詰め込める事について推奨されているワケでもなければ否定しているわけでもない立ち位置を感じさせる感じ。

勝手なイメージはことごとく打ち砕かれたのでした(笑)

時代は”サビノリ”

先程のとあるマスタリング本の著者さんのように一部分だけクリップすれすれを攻めている収め方…というのは、海外の音源でも見受けられるようになっているようです。

私の手元にある音源なぞ、発売されているモノから見れば本当にごく一部でしかありませんので、この事で世界のトレンドを…と語れるものではありませんが(笑)、そういう傾向も見えている…ということで捉えていただければ…と思います。

で、こちらがとある大病から復活する際にギタリストのメンバーを解雇しちゃったの?って程に芸風の変わった、とある女性シンガーさんのアルバムの一部を波形で表示したものです。

こちらは、カントリー畑から登場した歌姫(って何?)の2017年に発売された現時点で一番新しいアルバムの一部の収録曲です。

先程のモジュラーシンセを使った音源の時のように、楽曲全てを通して海苔波形…というわけではなく、要所要所に隙間の見える状態になっています。

この状態を私は【サビノリ】と呼んでいます。
“わさび海苔”じゃないですよ、”サビの部分だけ海苔波形”の略です(笑)

楽曲の抑揚の中で、音量を上げる以上の迫力を持たせる手法として海苔波形のパツンパツン感を活かして利用する…とでも言っておきましょうか。
その真意は判りませんが、いつからか曲全体を通して海苔波形で収録されるばかりでなくなって来ていると思われます。

まとめ

CDというメディアに収録されるファイルの音量について、これからもまだまだ様々な意見が交わされていくことでしょう。大音量こそ正義!というジャンルがあるのも理解できます。ただ、その大音量を聴かせるためにどこに気を配るべきなのか?という事は常々考えるようにしています。

日本では新元号を迎えようとしているこの年度の節目に、とある大御所ギタリストからの届け物は、こうした許容量に対する意識の持ち方を考え直すキッカケになったりもするのかな?なんて思い、今回の投稿となりました。

確かに海苔波形をパツンパツンで制作するのは簡単ではありません。ちょっと油断すればすぐにクリッピングノイズの嵐(笑)

では、クリップ寸前の大音量でなければ音量勝負の楽曲は勝負できないのか?というと、そうでもないはず。(確かにクリップ寸前まで詰め込んだ海苔波形の音源には、そうでない音源にはないパツンパツン感があるのも事実)

音量を決めるのはあくまでも聴き手の判断。私のように音量こそが正義!と思われがちなHR&HMをちっさい音量で楽しむ人も少なくないと思います。

逆にダイナミックレンジ(最大音量と最小音量の幅)を楽しむべきジャンルの音楽を大音量で楽しむ方もいらっしゃるわけです。
(ある程度の音量がなければ小さい音の時に聴き取れないですし)

音量の調整を聴き手に委ねた時、そこで再生される音は果たして制作サイドの意図した姿を見せてくれているのか?そんな事を考えるのはキリがない…という気がしないでもありませんが、答えは見いだせずとも意識して日々の制作にあたる必要はあるんとちゃいますでしょうか。

ちなみに私は、昔の音源を手に入れる時、可能であればリマスターされていないものを求めます。だからといって今回取り上げさせていただいたとあるアニソンシンガーさんの楽曲も好きで聴いています。しかし、もしも叶うのであればいつかマスター前の音源を聴いてみたい気もしないでもない。(探してみればハイレゾ音源の方で音量控えめの音源が見つかるかもしれませんしね)

でわでわ

P.S.
なんだかタイトルにあるような”HR&HM界隈を統括”するお話にならなかったですね(笑)

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